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家具に興味を持つようになったきっかけとして、現代にも残る名作椅子の存在があったことは間違いありません。

それらのデザイン性の高さは言うまでもなく、最も驚かされたことはそれらが生み出された時代の古さにあります。

まったく古さを感じさせないと言いましょうか、それどころか最近開発されたものだと言われたとしても違和感を抱くこともなかったと思われます。

木材の曲げ加工から複雑な加工に至るまで、その技術力においても現在と大きく引けを取る部分を感じさせないところがあります。

その素材においても木材に限られることもなく、スティールパイプ等の鋼材を積極的に用いたことを感じさせます。

デザイン性の観点よりそれらを用いたことも考えられますが、木材だけでは難しかった強度面の問題よりそれらを用いる必要性に迫られたことも背景にあるのでしょう。

例えばカンティレバーと言われる片持ち式の構造は、木材だけで充分な強度を保持することは難しいものです。

何よりもその線の細さを強調したい場合においては既に木材では不可能ですので、スティールパイプ等を用いること以外に選択肢はなかったのでしょうし、必然として綺麗な曲げや鍍金の技術も開発されたものと思われます。

更に木材だけでは不可能だった「しなり」を利用して新たな領域の掛け心地を創り出したようにも感じます。

イタリアで少しばかり学んだ頃には、「デザイナーはつくりのことを知り過ぎることは好ましくない」と言われたことは今でも覚えており、その意味合いはその知識に縛られることによりまったく新たなデザインが生み出されないことにあると教わりました。

このような考え方は日本では否定的かもしれませんが、ある部分において必要なことかもしれませんし、その中から未来の名作が生まれるのかもしれません。

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