「現物が持つ力」

「写真で見るよりも現物の方がはるかに良かった」もしくは「写真を見たところ期待していたが現物はそうでもなかった」のように写真と現物は少なからずギャップがあるものです。

本来高級なものであればあるほど相応にコストも掛けて写真の撮り方も工夫されるものですし、その価値を正しく伝えるべくカメラマンともその価値観を共有する必要があると思われます。

しかしながら意図通りにいかないことが難しい点であり、良くも悪くも結果は違うことも経験しています。

例えば、仮に写真としてはとても恰好良くイメージ通りに撮れていたとしても、必ずしも現物の質感や重厚感まで正確に伝わるものでもありません。

ゆえに伝えたいことに重点を置き何カットも撮影することになると思われ、それらすべてを総体的に見ながらまた読み込むことにより現物の印象も概ね把握できるのかもしれません。

画像だけで伝えることが出来ればそれに越したことはないのですが、どうしてもそれだけでは伝え切れないことが多いもので、それゆえ画像と共に文字にて補足することが一般的です。

そのような情報より総体的に判断することになるため、受け手の捉え方により印象も若干違ってくることは仕方ないことだと言えるでしょう。

場合によってはそれが良い点とも言えるかもしれず、その効果をあえて狙う手法も少なくないようです。

その点現物は良くも悪くもストレートにすべてを表現することになりますので、少なくとも写真の印象を下回ることがないようにすることが大事になります。

高級品においては、「写真で見るよりもはるかに良かった」と感じさせるような製品をつくり出すことが最も大事なことになりますので、それに自信があれば現物を見せる機会をつくり出すことも大切なことなのでしょう。

「アンティーク家具」

アンティーク家具には明確な定義があるものでもなく、一般的には100年以上経過していることがひとつの指標になるようです。

同時に、大量生産されていないものが対象になるようで、歴史や伝統が受け継がれた由緒あるデザイン性やその質が求められているようです。

それゆえ英国家具の少しばかりデコラティブな家具の印象も先行するのですが、その様式も本当の意味での成熟期は1920年代以降かもしれません。

その背景としては機械化があるもので、すべてを手作業にて行っていた当時と比較すると更に複雑で均一性に優れた家具が生み出されたものと思われます。

そうなると、100年経過していないものも少なくないと思われますが、イギリスにおいてはその頃に作られたものも立派なアンティーク家具として扱っている様子からも、厳密な時間の経過ではなくやはりデザインの質やその再現性及び完成度を重要視していることが感じられます。

何よりも、100年程度経過しても相応に綺麗な状態で残り続けていることに価値があるもので、当然のこととして無垢材にてしっかりと作られていたことが背景にあることは間違いありません。

一方ソファにおいてはどうでしょうか。

いわゆる消耗部材が多いことからも一般的な張りぐるみタイプソファがアンティークとして残ることは難しいことが現実でしょう。

従って椅子や長椅子と言った露出したフレームは無垢材で作られたタイプが残っていることが現実でしょうし、それらにおいてもどちらかと言えば少々デコラティブな印象も先行します。

いわゆるそれがアンティークっぽさなのかもしれませんが、未来のアンティークのひとつとしてオーセンティシティソファやボード類が受け継がれていくことに期待しています。

「タイムスリップ」

毎年足を運ぶように心掛けているのですが、先日はIFFT東京家具見本市視察を行いました。

国内メーカーにおいてはいつもの顔ぶれとなるもので、益々小規模開催となることからも特段真新しいことがあるものでもないことを早々に確認することになります。

昔のことを言っても仕方ないのですが、30年以上前はそれこそ華やかな展示会だったもので、ナショナルブランドだった大手国内メーカーのブースはとても広かったことを思い出すことになります。

その当時からも少なくなかったのでしょうが、中国メーカーの出展比率が高まったことからも、また相応なソファ展示も見られたこともあり思わず足を止めることになりました。

その瞬間に積極的に案内されることになり、当方はバイヤーではないデザイナーとなることも認識されたうえで、反応する間もなく畳み掛けてきます。

「ソファは30万円では絶対売れない」・「10~20万円が最も売れる」・「クッションの中身も見てください」・「羽毛を用い、内部ウレタンもチップではないものを使用している」・「ウェビングテープも使っているため底付き感もないでしょう?」・「正直に言ってどうですか?」…。

そのようなマーケットがヴォリュームゾーンとして根強く残っていることやその必要性についても否定することもないため、参考までに耐久年数(何年くらいで座クッションがへたってしまうのか)について質問してみました。

率直なところ、その価格帯であれば7~8年持てば上等かとも思っていたのですが、「ウレタンについては特別言及されることもなく、下地に用いているウェビングテープは10年もすれば伸びてくると思います(逆に10年は持ちます)」との回答です。

30年前にタイムスリップしたかのような不思議な感覚を覚えることになったもので、「何年持ちますか?」との質問に対しては胸を張って正直に答えられるような製品開発が必要になることを強く再確認することになりました。

「ソファの足下」

いわゆる造作ソファの場合は、台輪と言われるものや建築工事にて造られた下台の上にソファやクッションを乗せるような仕様となることが多いため、基本的にソファの下に埃が蓄積するような環境にはなりません。

更に、そのおさまりや見え方をよくするためには、それらを設置後の最終工程においてカーペット工事を行うようなこともあります。

そうなると完全に床面との間の隙間は見えなくなりますので、これにより完成度の高い造作ソファになるものと思われます。

このようにソファ下の掃除を不要とするためには、建築工事との兼ね合いも含めて事前の仕様決定には慎重になる必要もあるでしょう。

一方では、造作ソファにおいては壁面を背負わす形状が一般的なことからも、ソファの足下をきちっとシーリングすることにより実際の床面積は狭く感じてしまいます。

充分な広さがあればそれも問題にはならないものの、お部屋を少しでも広く見せるための手法として、ソファの足下を極力浮かすことがあります。

それにより実際の床面の縁も見えてきますので、足元までしっかりと囲ってしまうよりも比較的広く感じられるものです。

このことはソファに限ったことでもなく、例えば壁面一面に造作ボードを設置するような場合においても同様な手法を用いることも可能です。

足下を浮かすことにより比較的軽快な印象にも結び付きますので、特に大型家具を設置する際には効果的な手法と言えます。

また、床面より30cm程度はハウスダストが舞う埃ゾーンとのデータもありますので、極力浮かすことにより衛生面においても効果的とも言えるでしょう。

一方では足元はあまり浮かさない方がどっしりとした印象にもなりますので、総合的に判断されることをお勧めします。

「価格のからくり」

某有名海外ブランド家具においては、ほぼ一年中セールを行っている印象があります。

それゆえセール期間中以外に購入されることは避けられるようにも感じられるのですが、結果として購入に至るのであればこれも販売手法として間違っていないのかもしれません。

一方では、冷静に考えると仮にセール価格で販売される期間の方が長いと言うことになれば、セール価格の方が適正価格ではないのかと思われるはずです。

買い物の心理として、それが適正価格なのかには関係なく、一旦元価格が提示されるとセール価格との差額が大きいほどお得感を感じることになります。

また家具においては、ハウスメーカーや設計事務所等の法人を経由することにより定価より安く購入可能なことも少なくありません。

その場合はメーカーが法人に対して卸販売を行うことになりますので、当然ですがメーカーとしての利益率は下がります。

経由する法人にも相応のマージンが落ちることになり、尚且つ施主様に対する値引き販売が基本となりますので、相応な掛け率にて卸すことになることは容易に想像できるのではないでしょうか。

それだけに、当然ですが利益率を下げてでも卸販売することのメーカーとしてのメリットがあるからで、仮にそれがなければ法人を通す必要性も理由もまったくありません。

しかしながら悪しき慣習としてメーカーは法人に対して卸販売することが当然のような流れもありますので、先ずは無意味な卸販売は行わないメーカーとしての姿勢を示すことだろうと考えます。

このように、定価よりも安く購入可能なことに対しては必ずからくりがあることを認識すべきで、メーカーとしては自信を持って設定したベストプライスが安易に崩れることのないような方向性を構築すべきでしょう。